コラム ◇「付加価値、基本価値」をもう少し掘り下げてみる!

(メルマガvol.3より)

デザインマネジメントコラム
◇「付加価値、基本価値」をもう少し掘り下げてみる!


本メルマガでは、HDMF役員メンバーが持ち回りで、デザインマネジメント関連の話題をコラム発信します。

今回は、前回のコラムで取り上げた「付加価値、基本価値」という概念を、もう少し掘り下げてみます。
付加価値という言葉は、様々な分野・場面で使われます。ただし、その意味や使われ方も様々です。経済学では、

付加価値=企業活動(生産、販売)の過程で新たに加えられた価値=[売上高]-[原料費(仕入れ原価)など全ての中間投入額]

この定義は、生産・販売活動を前提に、それらから生じた価値を付加価値としています。付加される元となったのは、原材料等の価値です。この定義は、生み出す側の視点で付加価値を捉えています。

一方、価値とは何か、その認識、事実との関係、体系などを哲学的、経済学的に扱う「価値論」という分野があります。この分野の今日的な理解では、「価値の根源は、人間の欲求・欲望にあり、事実とは区別されて、認識されるもの。認識される価値の内容は、判断の主体たる個人や集団に依存する相対的なもの。」と捉えているようです。この認識は、生み出す側ではなく、受け止める側に立った価値定義です。
この視点で付加価値を捉えると、付加価値とは、「ある対象に対して、それを受容する人が認識する価値のうち、付加的と考える価値」と言えます。この定義が、私には、一番しっくりきます。デザインやブランド論などで、使われている付加価値の意味も受容者視点に立った上記の定義に近いものと思っています。このとき、付加される元となるものが、基本価値です。何を基本価値と見なし、何を付加価値と見なすか、受け止める人に依存し、固定的に決められない。これは、とても重要な認識と思います。

ただし、そうは言っても、人が認識する価値の内容を捉える中で、基本価値、付加価値について、大枠の概念整理ができそうです。

◆基本価値とは、
商品やサービスなどが、そのカテゴリーとして存在する上で、最低限必要な価値と見なします。言い換えると、
・そのカテゴリー商品等に求められる基本機能、いわゆる機能的価値。ただし、性能のレベルは問わない。
・使えること、役立つこと。つまり、利用時に得られる実用性のこと。

◆付加価値とは、
基本価値以外の価値であり、次の3つの要素があると見なします。
・便宜価値
商品やサービスを便利にたやすく購買できることや、使用の際の利便性や使いやすさ、といった価値
・感覚価値
商品やサービスの使用に当たって感覚器官に訴求する官能性や、嬉しい・懐かしい・楽しいなどの感情を引き起こす価値
・観念価値
希少性、神秘性、物語性、親和性と言った商品やサービスに付随して生じた価値

いかがでしょうか。この整理が、必ずしも正しいとは言い切れませんが、デザインを考える上で役立つと思っています。
前号のコラムで紹介したように、デザインは、基本価値にも付加価値にも関与します。成熟した商品では、基本価値は当たり前品質、顧客にとっての魅力にはなり難く、デザインによる新たな付加価値(便宜・感覚・観念価値)の創出が有効です。
また、デザインの活用は、従来のカテゴリーに無い新しい商品やサービスなどを生み出し、新しい基本価値、あるいは、新しい基本価値と付加価値の両方が提供されます。このとき、従来の顧客価値の革新(イノベーション)を引き起こし、大きなビジネス上の成功をもたらします。アップル社の一連の成功は、このタイプのデザイン活用と言えます。
皆さんが取り組むデザイン活用は、どのような価値創出をねらっていますか。

「価値=基本価値(機能的・実用的価値)× 付加価値(便宜・感覚・観念価値)」

と言うフレームが、デザイン活用戦略を考える上で役立ちそうです。

(HDMF理事  及川雅稔)

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